演者:加藤 淳二(札幌医科大学 准教授)
C型慢性肝炎や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)では、炎症が高度かつ肝線維化か進行したケースから、肝硬変および肝細胞癌(HCC)が発生し易いことが知られているが、その機序は不明である。
近年、持続登院炎症によって惹起される発癌過程には、細脳内で生じた活性酸素種(reactive oxygen species; ROS)による酸化的DNA損傷が関与する可能性が想定されている。
他方、C型慢性肝炎およびNASHの炎症増悪因子として肝細胞に蓄積した鉄の関与が注目されている。
鉄イオンはFenton反応等を介してヒドロキシルラジカル等のROSを生成し、酸化的DNA損傷を引き起こすことが知られている。
我々は、C型慢性肝炎の肝組織中に8-hydroxy-2’・deoxyguanosine(8-OHdG)が著明に蓄積していることを見出すとともに、瀉血と低鉄食栄養療法を併用した除鉄療法をC型慢性肝炎症例(F2/F3
grade)に約12年間行ってきた結果、炎症が改善するとともに肝内の8-OHdGの蓄積が解除されること※1、さらにHCC発生率が年率0.9%(対照群では3.9%)に低下することを報告してきた。※2
さらにNASHにおいても除鉄療法が炎症の改善に有効であることを報告した。
また、これらの疾患で肝に鉄が増加する機序として、C型肝炎では肝ヘプシジン発現の低下が、NASHでは十二指腸におけるDMT1、DcytbおよびHephaestinの発現増加が関与していることを確認している。
本シンポジウムでは、これまでの検討で得られた結果を中心に、肝炎・肝がんと鉄制御の関連性にについて述べてみたい。
文献
※1 Kato J, Kobune M, et al. Normalization of elevated 8-hydroxy-2′- deoxyguanosine
levels in chronic hepatitis C patients by phlebotomy and low iron diet. Cancer
Res 61:8697-8702,2001.
※2 Kato J, Miyanishi K, et al. Long・term phlebotomy with low・iron diet therapy
lowers risk of development of hepatocellular carcinoma from chronic hepatitis
C.J Gastroenterol 42:839-836, 2007.