4. 鉄欠乏性貧血と鑑別すべき二次性貧血
i. 慢性疾患に伴う貧血
疾患概念
関節リウマチなどの自己免疫疾患や炎症性腸疾患,抗酸菌や真菌などによる慢性感染症,慢性心不全,慢性腎不全,癌などの慢性疾患患者では,出血などの明確な原因が特定できない貧血がしばしば認められるが,このような貧血を総称して慢性疾患に伴う貧血(anemia of chronic disease: ACD)と呼ぶ1)。
近年の研究で ACD の主な病因は慢性炎症であることが明らかになったため,現在 ACD は慢性炎症に伴う貧血(anemia of chronic inflammation)の意味で用いられることが多い。
ACD では鉄欠乏性貧血と同様の小球性低色素性貧血を呈することが多く,血清鉄の低下も認められるが,通常血清フェリチンは低下せず,鉄欠乏性貧血とは異なった病態である。ACD と鉄欠乏性貧血では治療方針も異なるため,両者を適切に鑑別することが重要である。
病態
ACD は複合的な要因で発症すると考えられており,その原因として,
①赤血球寿命の短縮,
②腎臓におけるエリスロポエチン(erythropoietin: EPO)産生の低下,
③骨髄での赤血球造血能の低下,
④骨髄における鉄の利用障害,
などが挙げられている。
1.赤血球寿命の短縮
赤血球の寿命は約 120 日であるが,ACD ではしばしば 60 〜 90 日に短縮している。
マクロファージの活性化による赤血球貪食の亢進や病原体・尿毒症に由来する毒素などが原因として考えられている。
2.腎臓におけるEPO 産生の低下
貧血時には腎臓での EPO 産生が増加するが,慢性炎症時には IL-1 や TNFαなどの炎症性サイトカインが EPO 産生を抑制することが知られており,骨髄での赤血球産生が阻害され貧血の原因となる。
3.骨髄での赤血球造血能の低下
炎症性サイトカインであるインターフェロンγなどは骨髄における造血を抑制することが知られており,これも貧血の一因となる。
4.鉄の利用障害(図Ⅱ-4-i-1)

ACD の最も大きな病因と考えられている2)。
慢性炎症では IL-6 の産生が増加しているが,IL-6 は肝臓に作用して鉄代謝調節ホルモンであるヘプシジンの産生を増加させる。
ヘプシジンは細胞内から細胞外(血液中)への鉄の放出を抑制するため,マクロファージからの鉄放出,つまりマクロファージに処理された老化赤血球からの鉄リサイクルが阻害される。
また,ヘプシジンは腸管上皮細胞から血液中への鉄の流れも阻害するため,ACD では腸管からの鉄吸収も低下する。
これらの作用によって血清鉄は低下し,骨髄における鉄利用が障害されヘモグロビン合成が低下するため,ACD では鉄欠乏性貧血と同様の小球性低色素性貧血が発症する。