2 鉄代謝異常症の遺伝的素因について
鉄代謝異常症について
鉄は,ヘモグロビン合成や DNA 合成などに利用され,生体内で代謝調節がされている。
しかしながら,この生体内での鉄代謝調節が破綻することで鉄代謝に重要な調節因子であるヘプシジンの産生が低下し鉄過剰になると,各種組織において障害を引き起こす。
また一方,鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(iron- refractory iron deficiency anemia: IRIDA)は,鉄欠乏性貧血と同様に小球性貧血・血清鉄低値であるものの経口鉄剤投与に反応しない貧血であり,特に先天性のIRIDA はtransmembrane protease serine 6(TMPRSS6)遺伝子の異常によってヘプシジンの産生が亢進された結果,貧血を発症する。
ここでは,我々が解析した症例も含め近年明らかになった日本人における遺伝性鉄過剰症である遺伝性ヘモクロマトーシス(hereditary hemochromatosis: HH)と IRIDA のそれぞれの遺伝的素因について述べる。
鉄過剰症の遺伝的素因
鉄過剰症は,成因の違いから原発性(特発性)と二次性に分類される。
原発性は,生体内の鉄代謝に関わる各種遺伝子の変異によるHH が報告されている。一方,二次性は鉄代謝に関わる各種遺伝子に異常はないが,頻回の大量赤血球輸血による鉄の過剰
摂取が原因となっているものを指す。
特に本邦における鉄過剰症の主な原因は輸血療法によるものが大半を占めており,近年行われた鉄過剰症患者全体の調査では93.1% が輸血後に発症していることが明らかにされた1)。
世界的には,鉄過剰症の主な原因はHH であり,その分類は3 つに分けられている1)。
①古典型HHはHFE 遺伝子変異とトランスフェリン受容体2(TFR2)遺伝子変異による2 亜型,
②若年型ヘモクロマトーシス(juvenile hemochromatosis: JH)はヘモジュベリン(HJV)遺伝子変異と生体内の鉄の量を負に制御しているヘプシジン(HAMP)遺伝子変異による2 亜型,
③フェロポーチン病は鉄の細胞外鉄輸送蛋白であるフェロポーチン(FPN)をコードしているSLC40A1 遺伝子変異によるものである。
欧米においてHH は頻度の高い遺伝性疾患の一つとされており,HFE 遺伝子のホモ接合体c.845G>A(p.C282Y)変異を有する症例が1996 年に報告され2),その後,他の遺伝子における変異症例が報告されてきた。
本邦におけるHH は希少疾患であり報告された症例は少ないが,HJV,HAMP,TFR2,SLC40A1 遺伝子変異においてそれぞれの症例が報告されている(表補遺2-1)。
