1. HFE 遺伝子変異
HFE 遺伝子に変異を持ったHH は欧米で最も多く, 患者の約85% がHFE 遺伝子のc.845G>A(p.C282Y)のホモ接合体変異を持っている。しかしながら,本邦では1例3)のみの報告である。
その他に,ヘテロの変異であるc.527C>T(p.A176V)変異4)や c.691_693de(l p.Y231del)変異5)が報告された。
Y231del の変異は,ヒトの肝細胞株Huh-7 細胞において細胞表面へのHFE の移行を妨げることが報告されており6),細胞表面におけるHFE の欠失が鉄過剰を引き起こす要因となったと考えられている。
2. HJV 遺伝子変異
本邦においてHJV 遺伝子の変異は,6 家系11 人で報告されている7)-11)。最初の報告は古典型HH として見つかった2 家系3 例で,c.745G>C(p.D249H)とc.934C>T(p.Q312X)である7)。
さらに2008 年に典型的なJH家系で同定されたc.934C>T(p.Q312X)8)が,3 例報告された。
またさらに,2011 年には c.515_516insC(p.H174fsX196)9)が報告された。
H174fsX196 の変異は 196 番目のアミノ酸が終始コドンとなり,C 末端側のglycosylphosphatidylinositol(GPI)アンカー領域が欠損するため細胞膜に局在できないことが推定されている。
また複合ヘテロ接合体変異である c.449A>G(p.Y150C) と c.820G>A(p.V274M)が見出されたが,症状は軽度であり,複合ヘテロ接合体で発症する興味深い症例である10)。
さらに,2020 年には c.842T>C(p.I281T)11)の変異を持つ 37 歳と 52 歳の姉妹例が報告され,この I281T の変異は同様の変異を持つギリシャ人の症例からも発症が遅くなることが示唆された。
3.HAMP 遺伝子変異
HAMP 遺伝子の変異は,世界的に稀な病型であり, 本邦では 2012 年に c.223C>T(p.R75X)12)が 1 例報告されたのみである。
この患者の血清と尿中からはいずれもヘプシジンが検出されなかったことより,鉄過剰症を引き起こしたと考えられる。
4.TFR2 遺伝子変異
本邦で最初に報告された TFR2 遺伝子の変異は c.1861_1872del12(p.AVAQ621_624del)7)である。さらに,2 人から c.1469T>G(p.L490R)と c.1665delC(p.V561X)が報告されている7)。
また,Mizumotoらによって 56 歳女性患者で c.1131G>A(p.A364T)が報告されている(IBIS Annual Meeting, 2009)。
さらに,複合ヘテロ接合体の変異である,c.1100T>G(p.L367R)と c.2008_2009delAC(p.T670fs) も見出された13)。
この複合ヘテロ接合体変異の症例は, TFR2 の変異においても複合ヘテロ接合体変異により発症することが判明した貴重な症例である。
5.SLC40A1 遺伝子変異
この SLC40A1 遺伝子変異によるフェロポーチン病のみが優性遺伝形式をとり,全てヘテロ接合体変異を示す。
また,フェロポーチン病は肝細胞だけでなく網内系細胞にも鉄が蓄積することが他の病型とは異なる。
2005 年に報告された SLC40A1 遺伝子変異の c.1467A>C(p.R489S)7)を持つ患者は鉄過剰が軽度であり,肝生検組織はクッパー細胞に限局した鉄沈着を示し,線維化はなく,フェロポーチン病 A 型であった。
続いて 5’ 側非翻訳領域の変異(n.A117G)14)が 56 歳の女性患者において報告され,また糖尿病に罹患した 66 歳の男性15)と副腎機能不全を呈した 79 歳の男性16)に c.470A>C(p.D157A)の変異が報告された。
これら A117G と D157A の 3例は,フェロポーチン病 B 型に一致する肝組織像を示し,強い鉄蓄積は肝細胞と網内系細胞の混合型であった。
さらに,Aota らによって 63 歳の男性患者で c.485_487delTTG(p.V162del)の変異が報告された(日本血液学会学術集会,2014)。
特に,この D157A と V162del の変異については,FPN の発現に影響することが報告されている17)。
2020 年に報告された c.1469G>A(p.G490D)変異を有する症例は,同じ変異が FPN の発現低下によるフェロポーチン病 A 型を引き起こすことがすでに報告されていたが,この患者については生化学的検査,画像検査,および肝生検の結果よりフェロポーチン病 B型と診断された。
このフェロポーチン病 B 型と診断された理由としては,アルコール摂取によるものであると結論づけられた18)。
また c.1520A>G(p. H507R)変異19)20)は,2 例ともトランスフェリン飽和率が高値を示し,肝細胞に鉄沈着が認められたためフェロポーチン病 B 型とされた。
この H507R 変異は,ヘプシジンとの結合に関与している可能性が報告されている17)。