Ⅱ 鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断指針>4. 鉄欠乏性貧血と鑑別すべき二次性貧血>i.  慢性疾患に伴う貧血(2)

診断および鉄欠乏性貧血との鑑別

ACD と鉄欠乏性貧血はどちらも骨髄で利用可能な鉄が減少することで発症するが,その病態は異なるため,両者の鑑別は臨床上重要である。

血液検査における両者の特徴を表Ⅱ-4-i-1 に示す3)

ACD と鉄欠乏性貧血ではいずれも血清鉄は低下しているが,体内鉄絶対量が低下している鉄欠乏性貧血に対して ACD では体内鉄量の減少は通常認められない。

このため鉄欠乏性貧血では血清フェリチンが低下するのに対して,ACD ではフェリチン値の低下は認められないのが特徴である。

また,鉄欠乏性貧血では総鉄結合能(total iron binding capacity: TIBC)および不飽和鉄結合能(unsaturated iron binding capacity: UIBC)が増加するのに対して,ACD では TIBC,UIBC ともに正常あるいは低下する。

その他,ACD では慢性炎症を反映して CRP の増加や血清アルブミン値の低下が認められることがある。

血清フェリチンの低下は鉄欠乏性貧血に特異的な所見であるため,フェリチン値が低値であれば鉄欠乏性貧血は確診可能であり,ACD と鉄欠乏性貧血の鑑別は原則としてフェリチン値に注目する。

しかし,出血を合併する炎症性腸疾患(領域別鉄剤使用法:消化器内科の項を参照)や慢性腎臓病(領域別鉄剤使用法:腎臓内科の項を参照)では鉄欠乏を同時に合併することもしばしば認められ,このような症例では鉄欠乏があっても血清フェリチンが明確に下がらないことがある。

慢性炎症が存在する場合はフェリチン値を用いた体内総鉄量の評価が困難になるため,両者の合併が疑われる症例では原疾患を考慮しながら,慎重に状態を評価する必要がある。

治療

ACD の治療の基本は原疾患の治療であり,原疾患の改善に伴って貧血も軽快する。

ACD の場合血清鉄は低値であるが,鉄剤を投与してもヘプシジン増加のため最終的に鉄は細胞内に移行してしまい,投与された鉄が骨髄での赤血球造血に寄与する効率は悪い。

また,ACD では腸管からの鉄吸収も抑制されているため,経口鉄剤の効率も低い。

このため ACD に対して鉄剤投与は基本的には推奨されない。

ただ,上述のように ACD では潜在的な鉄欠乏を合併していることがあり,その場合には,鉄剤の経静脈的投与が有効なことがある4)

ACD に鉄剤投与を行う際には,総鉄投与量とヘモグロビン値,血清フェリチン値を十分にモニターしながら投与を行い,鉄過剰に陥らないよう十分に注意する必要がある。

逆に,ACD の原疾患である慢性炎症性疾患の治療が奏効した場合,鉄利用が回復すると鉄欠乏が顕在化することがあるため,治療中はヘモグロビン値,血清フェリチン値を注意深くモニターする必要がある。

なお,関節リウマチやキャッスルマン病では抗IL-6 受容体抗体であるトシリズマブが用いられるが,トシリズマブは IL-6 シグナルを遮断することでヘプシジン産生を大きく減少させる。

このため,トシリズマブが奏効した症例では,鉄の利用障害が改善し,貧血も改善傾向となり,血清フェリチンは低下傾向となる5)-7)

文献

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