鉄不足を攻略する食品選択
日本人の鉄摂取量は平均 7.9mg/day7)であり,鉄摂取量が食事摂取基準に達していない不足者の割合は高いと見積もられる。
鉄摂取量を増やすためには,鉄が多く含まれる食品(表Ⅲ-3-2)を選択する必要がある。

また,食事鉄の吸収は様々な因子に影響を受けることが知られている(表Ⅲ-3-3)8)。

体内貯蔵鉄量は食事から吸収される鉄量を制御するが,これは生体で鉄過剰や鉄不足を防ぐために調節されるシステムによる。
食事鉄の形態としては,動物性食品に多く含まれる鉄ポルフィリン複合体のヘム鉄とそれ以外の植物性食品に多く含まれる非ヘム鉄がよく知られている。
ヘム鉄は肉類や魚類の赤身部分に多く,非ヘム鉄は野菜,海藻,豆類,乳製品,卵類などに含まれる。
鉄同位体を用いた研究では,吸収率はヘム鉄が 50%,非ヘム鉄が 15% と見積もられている9)。
「日本人の食事摂取基準」4)では日本人の鉄の主要な供給源が植物性食品であり,非ヘム鉄の摂取量が高いことを考慮して,吸収率 15% を適用し必要量の算定に活用している。
一方で,表Ⅲ-3-3 (上画像)に示すようにヘム鉄の吸収率も貯蔵鉄量によって制御を受ける。
また,非ヘム鉄であっても,食事に共存する吸収促進因子によって吸収率は高まる10)。
非ヘム鉄の吸収効率を高める栄養成分としては,アスコルビン酸(ビタミン C)11), クエン酸やリンゴ酸など有機酸11),難消化性糖12)や食肉因子(またはミートファクター)13)などこれまで数多く報告されている。
たとえば,赤身の肉はヘム鉄の含有量が高く,かつ非ヘム鉄の吸収を促進する食肉因子も含むため,植物性食品と赤身肉や鉄吸収促進成分が組み合わされた料理は鉄摂取量を高めるために有用といえる。
その一方で,共存すると鉄吸収を阻害する成分として,米ぬかなどに多いフィチン酸や茶葉に多いポリフェノール(含タンニン),葉野菜やナッツに多いシュウ酸,カルシウム,リンなどが知られている10)。
たとえば,卵黄は鉄と強くキレートするリンタンパク質ホスビチンの存在による食事鉄の吸収抑制が報告されている14)15)。
このような鉄吸収阻害因子が多く含まれるような食材を避けることも工夫のひとつである。
その他,妊婦は奇形発症率を高めるビタミン Aの過剰摂取を避けるべきであり16),鉄含有量が高いレバーを過食しないよう情報を伝える必要がある。
おわりに
鉄代謝と食事の関係は密接かつ複雑ではあるが,鉄欠乏性貧血の予防には十分な食事量による鉄量確保のほか,鉄の摂取だけに注力せずに食事鉄を活かせるような食事を組むことが有効である。
文献
- Hagio M, Matsumoto M, Katsumata M, et Combined heme iron supplementation and nutritional counseling improves sports anemia in female athletes. Ann Sports Med Res. 2015; 2: 1036.
- Skolmowska D, Głąbska D, Kołota A, et al. Effectiveness of dietary interventions in prevention and treatment of iron- deficiency anemia in pregnant women: a systematic review of randomized controlled trials. Nutrients. 2022; 14: 3023.
- 日本腎臓学会編. 慢性腎臓病に対する食事療法基準2014 年版. 東京,東京医学社 , 2014.
- 厚生労働省 . 日本人の食事摂取基準 2020 年版 .
- 竹谷豊 , 塚原丘美 , 桑波田雅士 , ほか編 . 新・臨床栄養学 . 東京 , 講談社 , 2021.
- 小林ゆき子 , 市川菜々編著 . 臨床調理 第 8 版 . 東京 , 医歯薬出版 ,2023.
- 厚生労働省 . 令和元年国民健康・栄養調査報告 . 2020.
- Monsen ER, Hallberg L, Layrisse M, et al. Estimation of available dietary iron. Am J Clin Nutr. 1978; 31: 134-141.
- Young MF, Griffin I, Pressman E, et Utilization of iron from an animal-based iron source is greater than that of ferrous sulfate in pregnant and nonpregnant women. J Nutr. 2010;140: 2162-2166.
- Hurrell R, Egli I. Iron bioavailability and dietary reference values. Am J Clin Nutr. 2010; 91: 1461S-1467S.
- Ganasen M, Togashi H, Takeda H, et al. Structural basis for promotion of duodenal iron absorption by enteric ferric reductase with ascorbate. Commun Biol. 2018; 1: 120.
- Yeung CK, Glahn RE, Welch RM, et al. Prebiotics and iron bioavailability is there a connection? J Food Sci. 2005; 70: R88-92.
- Storcksdieck genannt Bonsmann S, Hurrel Iron-binding properties, amino acid composition, and structure of muscle tissue peptides from in vitro digestion of different meat sources. J Food Sci. 2007; 72: S019-29.
- Ishikawa SI, Tamaki S, Arihara K, et Egg yolk protein and egg yolk phosvitin inhibit calcium, magnesium, and iron absorptions in rats. J Food Sci. 2007; 72: S412-419.
- Kobayashi Y, Wakasugi E, Yasui R, et al. Egg Yolk Protein Delays Recovery while Ovalbumin Is Useful in Recovery from Iron Deficiency Anemia. Nutrients. 2015; 7: 4792-4803.
- Rothman KJ, Moore LL, Singer MR, et Teratogenicity of high vitamin A intake. N Engl J Med. 1995; 333: 1369-1373.