Ⅱ 鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断指針:2. 鉄欠乏性貧血の原因(1)

2. 鉄欠乏性貧血の原因

鉄欠乏性貧血は,体内の貯蔵鉄が枯渇し,赤血球造血に必要な鉄が骨髄の造血系に供給されないために発症する(図Ⅱ-2-1)。すなわち,鉄の需要の増加,あるいは供給量の減少が原因である。

鉄の需要の増加

鉄の需要の増加は,慢性の出血によって生じることが多い(表Ⅱ-2-1)。

出血の原因として最も多いのは月経である。月経血 60g によって,約 30mg の鉄が失われる。過多月経では子宮筋腫などの器質的な原因がみられることがある。器質的な原因が見当たらない場合は,von Willebrand 病などの出血性素因も疑うべきである1)

男性や閉経後の女性の場合には消化管からの出血(腫瘍,潰瘍,痔疾,大腸憩室など)を疑い,便潜血検査,上下部消化管の内視鏡検査などを行う。

Osler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性末梢血管拡張症)では繰り返す鼻出血や消化管出血で鉄欠乏性貧血をきたす2)

妊娠中や授乳中の女性では,胎児の発育や母乳中への分泌のために鉄の需要が増加している。したがって,鉄欠乏状態に傾きやすい。また,運動選手や成長期の若年者でも,筋肉量の増加などのために鉄の需要が増加している。

わが国では少ないが,消化管の寄生虫症や,マラリアによる血管内溶血も鉄の需要量を増大させ,世界的にみると鉄欠乏性貧血の大きな原因になっている3)( ただし,流行地域における小児への鉄剤投与はマラリア感染症のリスクを増大させる4))。

稀に,ミュンヒハウゼン症候群という精神疾患で貧血がみられることがあるが,これは隠れた自己瀉血による貧血である5)。出血源がどうしても見当たらない場合には鑑別診断に上がる。

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