思春期貧血
思春期は貧血が出現しやすい年代であり,その要因としては,体が大きくなり鉄需要が多くなることや,女児においては月経が始まることによる失血,また激しいスポーツを繰り返すことにより貧血が悪 化することがあることも知られている(スポーツ貧血)。
思春期の貧血は異食症(pica)が現れることもあり(氷をかじる氷食症例が多い),詳細な問診も必要である。
また,慢性消化管疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病など)が起こり始めるのもこの時期であり,出血源がないかを見極めることも重要である。
治療は,鉄の多く含まれる食事の摂取が極めて重要であるが(Ⅲ -3 鉄欠乏性貧血の予防と栄養食事療法の項参照),重度の場合には改善しにくく,また貧血になるほどの生活を送っていた思春期の子どもが食生活を劇的に改善できた症例は少なく,投薬が必要となる。

鉄剤投与の基本は内服である。
この年齢では成人と同様に徐放製剤 100 〜 200mg/day を 1 〜 2 回に分けて投与する。
投与に関しては,ヘモグロビンが正常化してもすぐにやめずに貯蔵鉄を増やすようにすべきである。
われわれはヘモグロビン正常化から少なくとも 2 〜 3 カ月の服用を行い,さらに中止後数カ月で再燃がないことを確認している。
副作用として特に消化器症状に注意が必要である。嘔気があり服用ができない例が,特に女児を中心にみられる。
このような場合は量を減量しても服用できる症例は少なく,静注製剤(含糖酸化鉄)を使わざるを得ないこともある。
静注製剤においては必要量を計算し適切な量を投与する。
しかしながら,この年齢においては内服薬が基本であることは留意すべきである。
さらに,最近発売になった高用量の静注鉄剤は静注回数が少なくてすむ優れた製剤であるが,経口鉄剤の投与が困難または不適当な場合に限り使用すること,原則として血中ヘモグロビン値が 8.0g/dL 未満の患者に投与すること,小児を対象とした臨床試験は実施していないという記載があることに留意すべきである。
文献
- 川口千晴 , 高橋幸博 . 新生児貧血の予防 . 母子保健情報 2010; 62:28-32.
- 楠田聡 , 松波聡子 , 川口千晴ほか . 早産児に対する鉄剤投与のガイドライン . 周産期医学 2006; 36: 767-778.
- 日本新生児成育医学会 医療の標準化委員会鉄剤投与のガイドライン改訂ワーキング・グループ . 新生児に対する鉄剤投与のガイドライン 2017早産児・低出生体重児の重症貧血予防と神経発達と成長の向上を目的として . 日本新生児成育医学会雑誌 2019; 31: 159-185.